死と超越

所見・偏見・エトセトラ

【掌編】無限階段

オチを考えずに書き始めたのが敗因だった気がします。


長い長い階段だ。どこからどこまで続いているのかわからないほどに長くて暗い階段だ。そう、これは無限に続く階段なのだ。きっと永遠に出口に辿り着くことはできない。それでも降り続けるしかない。そもそも、この階段を降りはじめたのはいつだっただろうか。ついさっきのような気もするし、もう何年も前から降り続けているような気もする。なぜ階段を降りることになったのか、どこに目的地があるのか、何も思い出せない。ただ降り続けなければならないという漠然とした感情だけが私の中にあった。そして私はそれに従ったのだ。登るという選択肢もあったはずだが、なぜだか私には登るより降りる方が似つかわしい気がした。だからこうしてずっと下に向かっているんだろう。大人の階段は登るものじゃなくて降りるものかもしれないじゃないか。人間はもっと下に希望を見てもいい。私はそんなことを考えながら、一歩ずつ階段を踏みしめるようにして降りていった。ふと踊り場の表示を見ると、

 

【↑B8008F B8009F↓】

 

と書かれていた。もうそんなに降りてきたのか、いや、まだこれだけと考えるべきなのか。ただ地下深くなるにつれて天上の明かりが徐々に薄暗くなってきているのは確かだ。このままのペースで降り続けたら、いつか真っ暗の中、手探りで階段を降る日が来るだろう。そう思うと今までの行為が全て無駄だったような気がして、後ろを振り返りたくなった。しかしそれはできなかった。もう振り向き方を忘れてしまったのだ。前へ進む足を止めることもできない。私にできるのは奈落に向かって永遠に降り続けることだけだ。