死と超越

所見・偏見・エトセトラ

(*^_^*)

ここ数ヶ月で世界認識の解像度が向上しているのを感じるが、向上速度に思考・思想の展開が追いついていないため苦しい。この苦しさを緩和するためには、たとえ各論が矛盾していても一旦言語化する必要がある。

 


 

日本各地を飛び回り、たくさんの人に会った(これを私は「巡礼」と呼ぶことにした)。これは私にとっては驚異的なことだ。23年伊達に生きてきた訳ではないという自信が湧かないでもない。一年ちょっと前まで他人に会うと一日は確実に寝込んでいたのだが、それもなくなった。これも成長である。好ましく思う。だが、それと同時に外界に対する好ましさが漸次的に減少しており、複雑な気分だ。
例えば興味本位で入ったアダルトショップで売られている商品、スーパーマーケットで売られているパッケージ以外差異のほとんど見られない商品。これらの毒々しさに辟易し、めまいすら覚えた。
私がウブなだけなのではとも思ったが、別に以前は何とも思わなかったわけで、これは就活を通して寡占市場における無意味な付加価値の羅列に対する理解(侮蔑)が深まった結果なのだろう。ようは本質的でない価値をさも本質的かのように騙ることに嫌悪感を示しているのであって、私は潔癖なのである。(ではこの本質的ではないのにさも本質的なことを言っているような文章はいったい何であるのか)

 

さて、さらっと就活について触れたわけだが、世の就活生が思うのと同様に就活に対してまったく気乗りしない。なんで手に職つけないといけないんだろう。というところで就活の意義について考えてみる。
資本主義社会では残念ながら生きていくために金が必要である。やりたいことが継続的な収入に繋がる可能性がそれなりにある場合は思う存分それをやればよいが、やりたいことがなくてただ刹那的に生きたかったりやりたいことが金にならなかったりする場合はヒモだろうとホームレスだろうと資本家に労働力を奉仕する代わりに賃金を得なければならない。あれ別に就職しなくても最低限労働すればよくね?*1
私のしたいことはと言えばマッドサイエンティストになることと音楽で人を殺すことなので現状就職を選択するつもりだが、私はそこまでして生き続けたいのだろうか? 好奇心と惰性だけでここまで生きてきたが、この先寿命まできちんと生き続ける自信があまりない。先述した潔癖さも相まって、このままだらっと生きていたら27才ぐらいで精神に何かしらの異常を来すんじゃないかとかつての私が試算していたものが、いよいよ現実味を帯び始めている。
(という文章を書いているときに坂本龍一逝去の報が入ってきたのは偶然だろうか?)
......といいつつなんだかんだずるずる生きてしまいそうな気もする。が、それはそれである種の死ではなかろうか。「考えるのをやめ、脳内快楽物質のままにテキトーに行動する」のが世の多くの人間だと弊研究室の講師と同意したのは記憶に新しいが、そんな生き方をするつもりは現状ない。
ということで、ずるずるテキトーに生きることなくこの先を生きていくと仮定すると、人生には好奇心と惰性以外の何かが必要だ。では一体何を? 

結婚と子供なのではないかという短絡的かつ世間一般的な結論に一周回ってたどり着いた。我ながらつまんね~結論とは思うが、私が主観的に必要としているわけではなく客観的に見て必要と考えられるものである事に注意したい。客観的に考えてこれらが必要であると一旦結論づけた上で私の主観を述べるとすれば、私は結婚はしたいかもしれないけど子供は要らない気がする。結婚というか、誰かの人生を縛って手元に置くことで安心を得たい。でもこれは結婚じゃなくても良い気がする。飼育(当然人間の)とか。子供は単純に嫌いで、子供が好きと宣う女性も大抵嫌いで、もう本当にどうしようもない。更に言うと、別に反出生主義者というわけでもないが、子供に自分のエゴを乗せられる人間には素直に感動する。動物全般にエゴを乗せることができない*2ので私はその辺をかなり諦めている。

先日指導教官(既婚女性)と飲む機会があったので、メンターとしてではなく人生の先輩として彼女を消費するのもたまには良かろうと思い、先述した生きていく目的について聞いてみたら「生きるのに目的がなくちゃいけないの?」と言われた。すでに日本酒を三合近く飲み意識が混濁していた私は何も反論することができず、その後しばらく「生きるのに目的がなくちゃいけないの?」という言葉がひたすらに頭の中で反響し続けていた。生きていくのに目的が必要なのか? わかんね~。本当はとてもシンプルなことのはずなのに、変に婉曲した考えばかりしているせいで何にも分からなくなっている気はする(し、多分そう)。ただ、彼女は友人に恵まれている=認知バイアスが強いせいで、彼女の想定する人間はかなり能力が高いということが後になって発覚した。そのため、この言葉の持つ力が今かなり弱まっている。彼女が想定するほど世の多くの人間は無目的かつ合理的に動けないのだ。

話が大分それてしまった。生きる目的があるにせよ無いにせよ、就職する意義があまりなく、よって就活のモチベーションがない。とはいえ今就活しないことが合理的だとは思わない。この相克の結果、今受けようと思っている企業を全て受け終わったとき内定が出ていたら就職、出ていなかったら博士課程に進学することとした。
だがそもそも就職しようと思ったのは、アカデミアのドロドロしたどうしようもないゴミみたいな部分を配属早々長期に渡って見せつけられたからだった。それを何の因果かまた進学する可能性を考えている自分が普通に愚かしい。だが進学した暁には私に加害した人間をアカデミアから追放し社会的に抹殺すると決めてある。これが現段階で考えられる最も具体的な生きる意味かもしれない。

 


 

思った以上につまらない文章になってしまった。というか最近つまらないことしか考えられていないことがよくわかる。もっと面白みのある事についてのみ考えていたい人生だ。しかしまあ自分がどれだけつまらない人間か自覚することでしかおもしろは生まれない気もするので、この文章がつまらないことはおもしろへの第ゼロ歩目としては及第であるということにしたい。

*1:ライン工に代表される単純労働や土方をしたくないので消極的に就職することとなる

*2:結婚のくだりと即座に矛盾していることに、今私はとても驚いている。大人はもう人格ができあがっていて更生の可能性がほとんど無いので相手がドクズだった場合は何の罪悪感もなく縛ることが可能だが、子供は更生の可能性が残されているためそれができないのかもしれない。もしそうだった場合、私が生きていても(積極的に望んでいるわけではないが、)幸福は一切望めないだろう。

何かを書こうと思ったはずなのだが、一体何を書こうと思ったのか忘れてしまった。だからこの半年間何をしたかを書きます。

 

外出した。

外出をしました。沼津や養老、沖縄など、私にしては色々出歩いた方なのではないかと思います。これはやはりそういう友人や周りの環境ができたということなのでしょうね。私は本当に出不精でハイパードケチで、ーーこれが一番の原因なのですがーー人見知りです。だから旅行とかができる関係性をもったことがほとんどないんですよね。なのでそんな私と一緒に旅行してくれる人がいるのがとてもうれしいです。

そして私は知能が高い動物が嫌いです。人間とか、犬とか。魚やヤドカリは嫌いじゃないなと思いました。何でなんでしょうね。四つ足がダメなのかもしれません。四つ足なのは食肉用家畜だけで十分ですね(乳牛に足は必要ない)。だから今度はそういう生き物が少なくて、下等生物や植物がたくさんいるところに行きます。

人間は嫌いですが、人間の生み出す文化は好きです(地球を滅ぼしに来た宇宙人調査員の報告書みたいですね)。最近久しぶりに盆踊りをしました。地元には盆踊り的なものがなく(あったのかもしれませんが、私は参加していません。あったら泣きます)、するとしたら父親の会社の納涼祭とかだったのです。そして今年10年ぶりくらいにやったらちゃんと楽しくてびっくりしましたね。また参加したいと思います。

 

本を読んだ。

本はたくさん読みました。高校時代はほとんど読んでいなくて、ここ数年で読み始めたのですが、読むコツを取り戻したようで最近はかなり速いペースで読めています。といっても一日50-100ページくらいなんですけどね。でもこの前、村上春樹のねじ巻き鳥クロニクルの第三巻を一日で読み終わりました。これは600ページ超だったので、単純計算でいえばカラマーゾフの兄弟(新潮社版)全三巻を三日で読み終わるスピードで読んだことになります。まあ、村上春樹の文章は読みやすく、カラマーゾフの兄弟はそれなりに密度があるので倍以上はかかると思いますが、所謂読書家という人間はそれくらいのスピードで読破していくのでしょうね。やれやれ。てか村上春樹射精しすぎじゃないですか?絶倫か?

とまあ色々読んで思ったのですが、どうやら私は創作物が好きなようです。歴史や評論も読むのですが、あんまり気乗りしません。おそらく私は具体的な主張になる以前のものが好きなのだと思います。

 

就活をした。

就活は現在進行形でしています。なぜなら路頭に迷いたくないからです。本当にそうでしょうか。最近は別に路頭に迷ってもいいな、という気がしています。特に将来したいことはない(正確に言うとあるのですが、それが金銭と結びつく可能性がない)のですが、なるべく嫌いな人種と将来関わり合わないために頑張っているというような感じです。でもどうせどこに行っても苦手な人種と関わらなきゃいけないだろうし、自分が他人にとっての苦手な人種である可能性もあるし、むしろその可能性の方が大いにあるのではないか。という気がしますが、まあそんなこといっても仕方ないですよね。仕方ないからこそ言ってしまいたくなるときもあるのです。まあまずは内定とってからそういうことを考え始めれば良いのではないでしょうか。

 

作曲した。

作曲をしました。最近研究と就活で音楽に割ける時間がほとんど無くなってしまって、音楽はもっぱら聴き専でした。しかしついに会の方で企画が動き出したのでそんなことは言ってられなくなり、書きました。書こうと思えば書けるものですね。まあポップスだから少ない時間で書けたんですけどね。器楽曲を書こうと思ったら多分今頃死んでました。ナイス判断だったと思います。

今回は、楽器の特性をほとんど無視して個性を殺すことにしました。個性だけでなく演奏も難しいので奏者も死にます。でもそれは現在置かれている状況を戯画化しただけで、別に特別なことではないんですよね。そしてそうすることで逆説的に演奏の肉体性が浮かび上がってこれば良いなと思うのですが、はたして演奏できるのか。大変不安です。また曲を修正しまくって奏者共々苦しむ構図が見えます。どうして毎回こうなってしまうのでしょうね。作ってる最中の記憶が欠落しているので分からないです。

 

......と、ここまでなるべく柔らかい文体(頭の悪そうな女子大学生の文体を目指しました、目指し切れていない気がします)と内容を心がけてきたのですけれど、ーーですます調がやわらかい文体なのかと言う議論はさておきーーというのは、最近妙に疲れていて強いことばを使う気力が無いからです。肉体的な疲れは別に寝れば治るので(若さの特権ですね)いいとして、精神的にまいってしまっております。確実に就活のせいだと思っています。さっさと終わらせたいですね。インターンとか早期内定とかそういう制度を作った人間はマジでドブカスの腐れ外道だから、来世は「賽の河原にあるけど形が悪いから全然誰も積んでくれない歪な小石」に転生して、でも小石は非生物だから死んで転生するということはそれ以上はなくて、そのまま摩耗して極々小さな結晶になって、どれが本当の自分かわからなくなってしまってほしいですね。何の話だったっけこれ。

【掌編】無限階段

オチを考えずに書き始めたのが敗因だった気がします。


長い長い階段だ。どこからどこまで続いているのかわからないほどに長くて暗い階段だ。そう、これは無限に続く階段なのだ。きっと永遠に出口に辿り着くことはできない。それでも降り続けるしかない。そもそも、この階段を降りはじめたのはいつだっただろうか。ついさっきのような気もするし、もう何年も前から降り続けているような気もする。なぜ階段を降りることになったのか、どこに目的地があるのか、何も思い出せない。ただ降り続けなければならないという漠然とした感情だけが私の中にあった。そして私はそれに従ったのだ。登るという選択肢もあったはずだが、なぜだか私には登るより降りる方が似つかわしい気がした。だからこうしてずっと下に向かっているんだろう。大人の階段は登るものじゃなくて降りるものかもしれないじゃないか。人間はもっと下に希望を見てもいい。私はそんなことを考えながら、一歩ずつ階段を踏みしめるようにして降りていった。ふと踊り場の表示を見ると、

 

【↑B8008F B8009F↓】

 

と書かれていた。もうそんなに降りてきたのか、いや、まだこれだけと考えるべきなのか。ただ地下深くなるにつれて天上の明かりが徐々に薄暗くなってきているのは確かだ。このままのペースで降り続けたら、いつか真っ暗の中、手探りで階段を降る日が来るだろう。そう思うと今までの行為が全て無駄だったような気がして、後ろを振り返りたくなった。しかしそれはできなかった。もう振り向き方を忘れてしまったのだ。前へ進む足を止めることもできない。私にできるのは奈落に向かって永遠に降り続けることだけだ。

【掌編】扉

普通に書く時間が無くて雑な作りになってしまいました。

 

私は元来方向音痴です。たとえナビの指示に従っているつもりでも、全く見当違いの方向に歩いていることがよくあります。ただ、あてもなく歩くと思いもよらぬ発見や出会いがあるものですから、最近ではナビも使わずに当てもなく歩くのが半ば趣味になっています。

しかし今日はそれを控えるべきでした。旅先の見知らぬ土地で、地図も持たずに目的地まで迷わずたどり着ける方向音痴がどこにいるでしょうか? そう、私は迷子になってしまいました。とはいえ私は呑気なもので、なんとでもなるだろうと、ふらふらと彷徨っていました。そうやって歩けば歩くほど人気の無い廃墟のような建物が増えてきます。普通このような場面では孤独感や恐怖感を覚えるのですが、この時はなぜだかとても安心感がありました。そして気がつけば私は完全に道を見失ってしまっていました。困り果ててスマホを取り出しましたが圏外なので使えません。もう辺りは真っ暗です。私は途方に暮れてしまいました。

すると前方に何やら明かりが見えてきたのです。私はその明かりの方へと駆け寄りました。

 

そこは商店街でした。看板を見ると「赤猫通り」と書かれています。私はようやく道を聞けると期待しましたが、そこは寂れた商店街で人の気配はありませんでした。

なんだ、と落胆したそのとき、あることに気がつきました。全ての店の壁面に窓はなく、代わりに家の玄関のような開き戸がびっしりとついていたのです。「町おこしに、商店街の使われなくなった一角をアート作品にでもしたのだろうか」私はそう思い、見物することにしました。もしかしたら管理人がいて、道を訊けるかもしれませんからね。

 

その扉たちは似ているようでいて一つ一つ微妙に異なる形をしていました。また鍵の数も一つだったり二つだったりとまちまちで、板を打ち付けているものもありました。そしてほとんど全ての扉には厳重に鍵がかかっていました。しかし一つだけ鍵穴のない扉がありました。その扉には全く見覚えがありませんでしたが、何故かこの扉は自分のためのものだという確信を抱きました。

ドアノブを回すと、それはいとも簡単に開きました。中は明らかに自宅とは異なる間取りで、私なら買わないであろう趣味の悪い調度品で溢れていましたが、私の家であるとしか思えませんでした。だって、鍵のかかっていない家に無断で入る人間なんて、泥棒以外には所有者しかいませんからね。

 

そして私はそのままその家に住むことにしました。

迷う道は無くなりましたが、その代わりにこの扉を誰かが私と同様に迷って来たときのために解放したままにしておくか、周りに倣って鍵を取り付けるか迷っています。夜風が冷たいですし、ちゃんと戸締まりをした方が、誰かが興味を持って扉をノックしてくれるかもしれませんから。

 

 

【掌編】人さらい

稲垣足穂安部公房ねこぢる=4:2:1みたいな雰囲気にしてみたかったんですが、あんま上手くいってない気がそこはかとなくします。

あとまあ書いといて何なんですが、そんなに面白くないです。

 

その日はテスト週間でした。

僕が国語の課題を解き終わって一息つこうと学習机から顔を上げると、窓の外には雲一つない黒塗りの空が一面に広がっているのでした。

 

すると僕は急に今日の放課後のことを思い出しました。僕は教室でいつものように本を読んでいて、教卓の前で女子グループが会話をしていたのです。

「夜空に浮かぶお月様は、夜な夜な独りぼっちを拐っていくんだって」

「この前Y子ちゃんが拐われちゃったらしいよ」

「Y子.....? ああ、あの子地味だったもんね〜」

彼女たちの話を要約すると、月が独りぼっちを拐いにやってきて、拐われた独りぼっちは月の海の中で永遠に一人で彷徨うらしいとのことでした。そんな非科学的で馬鹿な話があるものかと鼻で笑ったのですが、Y子が突然いなくなったのは事実でしたので少し怯えてもいました。

 

そしてその恐怖が夜の闇によって増幅されてしまった様なのです。

「でも今日は月が出ていないから大丈夫だ」僕は自分に言い聞かせるように呟きました。しかし恐怖心は一向に収まる気配がありませんでした。

そして僕は思い出したのです。昨日は確か大きな丸い月が出ていたはずでした。だから今日月が出ていないのはあり得ないのです。それに気づいた途端、窓から見える景色がぐにゃりと歪み、気がつくと目の前には大きなお月様が立っていました。

 

「さあ行こう」お月様はそう言って、僕の腕を強く引っ張りました。

「痛い、痛いよ」僕は叫びました。

まるで抵抗する僕の声が聞こえないかのように、お月様は腕を引っ張る強さをどんどん増していきました。このままでは拐われてしまう、そう思った僕は机に必死にしがみつきました。しかしお月様に掴まれた腕はピクリとも動きません。僕はどうしようもない力の差を感じて思わず泣きそうになりました。するとお月様はそんな僕を見て微笑みながら言いました。

「泣かないで、一緒に散歩しに行くだけさ」

「嘘だ! お前は人さらいだろう」

お月様は少し考えてから「そうさ」と頷きました。

「君みたいに透明な子を拐ってしまうのさ」

「僕は、透明なの?」

「そうさ。君みたいに誰とも仲良くせずにただ日々を消化している人間は透明になっていくんだ。そして、完全に透明になった人間は社会から排除されるんだよ」

「そして月の海の中で永遠の孤独に彷徨う」僕は教室で聞いた言葉をそのまま言いました。

「よく知っているね!」お月様は大変驚いたようで、僕を引っ張る力が幾分か弱くなりました。僕は今がチャンスだと思い、強気に出ることにしました。

「僕は透明なんかじゃない。だから行かない」

「じゃあその足は何かな?」

見れば僕の足先が徐々に透明になっているではありませんか! さっきまでの強気が嘘のようにシュルシュルと萎んでしまいました。

「さあ、これでおわかりいただけたかな」

そう言い終わるやいなや、お月様は僕をヒョイと持ち上げ、がっちりと抱きかかえてしまいました。そして天高く飛び立ったのです。対流圏を越えて成層圏、その上の熱圏、更にその上の――。

「安心して、透明になるのは君だけじゃない。自殺とか殺人とか、そういった話題が耳目を集めているだけで、毎日何十何百という人間が透明になっているよ。そして僕を恐れる人たちも、身を寄せあって興味もないはずの話に熱中して孤独を忘れているだけなんだ。彼らも心の中に月を飼っていて、夜な夜な月の海に溺れているのさ」

その時、僕は不意にお月様の首筋に何か紐のようなものが付いているのを見つけたのです。そして恐る恐る手を伸ばして引き抜きました。それは差し込みプラグでした。

プラグを抜かれたお月様は光を失い、真っ逆さまに地球に落ちて来て、粉々に砕けてしまいました。ああ、これで透明な子供たちは救われるんだと僕は安堵し、布団へと向かいました。まだ夜中の一時だったのに、既に空は白んでいました。

 

それがこの事件の全てです。お月様の死を境に世界は変わってしまいました。

この世界には明日はもう二度と来ません。太陽の対極を失った僕たちは、夜だけでなく昼も失ってしまったのです。ただひたすらに薄暗い風景が辺り一面に広がっています。お月様を殺した犯人探しも躍起になって行われているようです。幸い僕は犯人だと疑われていませんが、隣の家のI君が連れて行かれてしまいました。どうやら透明な存在の疑いのある人間が続々と連行されているようです。

心なしかみんな前よりピリピリとしています。僕が行ったことは果たして正しかったのでしょうか? 僕が目指したのは誰も不幸にならない世の中だったはずなのですが......。

【掌編】人を刺した話

 何故日記にはその日に起きた実際の出来事を書いてしまうのだろう。実際の出来事を全く書かずに、虚偽の出来事だけを書いても日記たりうる場合はないのだろうか?

 

 

 

 

12月の寒空の下を歩いていると、四つん這いでうめき苦しむ男性がございました。こりゃあどうしたのかなと思い遠巻きに見ていると、その呻き声というのが「助けてくれ、助けてくれ」という言葉だとわかりました。ああなるほどこいつはキチガイだと合点致しましたのでその場を離れようとすると、どうしてか動けないのです。見ると彼の手が私の脚をがっしりと掴んでいるではありませんか。
「やめてください、やめてください」と私が申し上げますと、
「やめろだなんて水臭いことを言わないでください。私とあなたの仲じゃあありませんか」と仰るので、こりゃあ新手の寸借詐欺か何かかなと思い顔を見るとそれは私の顔でした。
「この顔を返して欲しければ私の言うことを聞いてください」
顔がないまま暮らすことはできないのは明白でありましたので、渋々彼(私?)の言う通りにすることにしました。

 

「ここに包丁がありますので、そこら辺にいる人を誰でもいいから一人刺し殺してきてください。なに安心してください、今のあなたには顔がありませんからね。何してもあなたのせいにはなりませんよ」
「いくらなんでも人を殺すだなんて。そんなこと、いくら頼まれてもやりません」
「『そんなこと』とあなた仰いましたね? 笑わせないでくださいよ、あなたいつも誰でもいいから殺してみたいと考えていたじゃありませんか。図星でしょう? 顔が教えてくれるんですよ」
「しかし私には良心というものもある」
「そんなものマヤカシですよ。良心なんてものは学校教育で後天的に刷り込まれた偽善的な道徳観念に過ぎないんです。誰も彼もみんな本当は悪いことを考えているんだから気にするだけ無駄というものです。さあ早く人を殺しに行って下さい。早くしないと私はこのまま帰ります」
顔が戻ってこないのは大変困りますので、私は仕方なく道行く中年女性に目をつけて背後から忍び寄りました。そして背中に包丁を突き立てたのです。うっという声が彼女の口から漏れました。
「まだだまだだ、そんなんじゃ人は死なないよ。肋骨に水平になるように刃を突き刺すんだ」と彼は言いました。
私は言われた通りにしました。それからはもう我を忘れ夢中で刺し続けたのです。気づいた時には女性の胸部はぐちゃぐちゃになってしまい既に事切れておりました。
「我ながら実に見事な犯行でした。突き刺せとは言いましたが、まさか何度も刺すとは......。顔に表れない深層心理がそうさせたのでしょうか。だとすると私は私が思う以上に悪人なのかもしれません」そう言うと彼は私に顔面を返して消えてしまいました。辺りはすっかり暗くなっていました。

 

帰宅してテレビをつけると、ニュース番組は先程の事件でもちきりでした。その後、週刊誌やワイドショーでセンセーショナルに取り上げられたりもしました。しかし彼が言ったとおり、いつまで経っても私が捕まることはなく、いつしか話題に上がることも無くなったのです。話題にこそ上がらなくなりはしましたが、犯行現場の献花を見かけるたびに、人を刺した感触を手のひらに感じるのです。これが私の中の良心なのでしょうか?
そして未だに私が疑問なのは、彼が一体何者で、もしあのとき人を刺していなかったら私はどうなっていたのか、ということです。そればかりがどうしても気がかりなのです。

唐突に戯曲を書きたくなった

クソみたいな戯曲を書いてみた。理由は、最近モリエールとかイプセンとか安部公房の戯曲を立て続けに読んで書きたくなっちゃったから。この戯曲がクソたる所以は内容が飛びに飛びまくっていて、書いた本人ですらわからなくなっているところ。

 

第1幕

「人を心から愛することができない理由がわかった。頭が切れて知識欲のある人間が好きで、頭の悪い、知識欲のない人間が嫌いなのに、自分より頭の良い人間やそういった欲求の強い人間を見ると嫉妬に駆られて殺してしまいたくなるからなんだ。つまり僕はもう一人の僕を探していて、そんなものはこの世に存在しているわけもなく、僕は孤独のうちに死ぬのだろう。仮に存在しているとしてもそれはドッペルゲンガーだから、見つけた瞬間に消えてなくなってしまうだろう。」

「この世はカスである。誰も都合の悪い真実なんて求めていなくて、心地よい嘘とクソどうでも良いしがらみだけが日々安寧に暮らすために必要だ。そしてその心地よい嘘たちを形作る性善説性悪説なんて嘘っぱちだ。タイムマシンがあったら当時の中国の思想家を軒並み惨殺してしまいたい。流れ出る鮮血だけが真実だ。そう、必要なのは革命だ」

「なんでもいいからとりあえず可愛いものだけを消費して生きていたい。IKEAのサメとか。高校生になったときベージュの自転車を買ったのも、レンズの大きめな眼鏡に変えたのも可愛らしい存在になりたかったから。おしゃれなカフェに行って、古着屋で服を買って、クリスマスのイルミネーションを見て、普通すぎる? 普通の何がいけないの?」

拙者「(風の谷のナウシカを読んでいる)クロトワ!??!?!??!??!?!?ウワッ、ウワー―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――ーっ!!!!!!!!!!ユパ???!??!?ユパ、、、、、、ユパ..........???????

ユパー―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――ッッッッッッッッッッx!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」

「うるさい死ね!!!!!!!!!!!!!!!!!!」

(ナイフで心臓を突き刺す)

拙者「ウグッ......ほら見ろよお前の好きな血だよハハハ......。これが真実なんだろ? ほらもっと近くに来いよほら、......おいてめえ逃げんなよ臆病者が!!!!!! それで真実を語ってたのか? この大嘘つきが!!」

「黙れ黙れ黙れ黙れ!」

拙者「......」

「ウワー―――――ッ黙れと言われて本当に黙るやつがいるか!!!!!」

「なんでこの人たちはいつも真実とか嘘とか一々比べたがるのかしら?」

「この人たちはレジスタンスなんだ。もっと言うと、抵抗することに生きがいを持っているんだ。世間や自分が所属する団体が間違っていて、自分はそれをただすことができる優秀な人間だと陶酔しているのさ」

「そんなことしていたらさぞかし生きづらいでしょうね」

「そんなこともないようだよ。確かに端から見れば彼らは組織の輪を乱す面倒な奴らさ。でも当人にとってはむしろその状況こそが生きがいを与えてくれるんだ。なんだかんだ仕事はするから組織の方も見限りはしないしね」

「ふーん、なんかよくわかんないね(笑)。まあいいや。あんな奴ら放っておいて、カフェ(笑)にでも行こうよ(笑)」

「いや、カフェ(笑)とか行ったことないから、ちょっと......」

「はじめは誰もどこにも行ったことないでしょうが。ほら行くよ」

(ああダメだ。またしても僕は自発的にどこかへ行く選択ができなかった。毎回毎回僕よりも勇気ある人間にこうして手を引っ張られて連れて行かれるのだ......)

 

第2幕

「......ってここは!?」

メイドカフェ

「????????」

「だからメイドカフェ

「悪い冗談はヨシ子ちゃん」

「さっむ。中入るね」

(うさ耳を付けてバニーガール+メイドのキメラコスプレをしている)「いらっしゃいませご主人様お嬢様~!!2名様ですね?ようこそメイドの王国へ~!」

「かわいい~!!!!」

「なにやってるんですか」

「見てわからんぴょんか? バイトだぴょん。このクソみたいな世の中で暮らすためにはこのように資本主義社会に組み込まれ社会を動かす歯車として機能しなきゃいけないんだぴょん。殺すぞ」

「キモすぎる」

「どこに目が付いてるの?どこからどう見ても可愛いのイデアが現象界に顕現してるでしょ」

「お席はこちらぴょん。お料理はなにがいいぴょんかね?」

「なんでもいいです。はやくこの空間から解放してくれればそれでいいです」

「じゃあぴょんぴょんパンケ~キ二つで。」

「了解ぴょん。......あっそろそろ始まるぴょん!」

「......ということは、あれが見られるのね!」

(店内の照明が落とされ、ミラーボールが回転をはじめる。ソビエト連邦国歌が流れ始める。)

「万国の労働者諸君、万国の労働者諸君。.......万国の労働者諸君!(踊りながら)」

拙者「暴力革命! 暴力革命! うぉぉぉぉおおおお暴力革命!」

「??????」

メイドカフェなんだからメイドが歌って踊って当然でしょ?」

「でもさっきから『万国の労働者諸君』しか喋ってない......」

「にわか仕込みの共産趣味だからそれ以外の言葉をよく知らないのよ。黙って見てて」

拙者「(思いだしたかのように風の谷のナウシカを読み始める)ナウシカの胸の膨らみ、エッチだ......w クシャナーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!ごぼっごぼっ.......(気道に血液が入り絶命)」

(ミラーボールと音楽が止まる。暗転のまま)

「今ここに最後の常連客が絶命した。これが本当の冥土カフェ、なんつって。寒すぎてもはやこの店も終いだ。私がこの場にいる義理もなくなった。これが貴様らが頼んだぴょんぴょんパンケ~キだ。さようなら」

(『俺』退場。←なんか仮面ライダー電王みたいですね)

 

第3幕

「......彼らは僕にとっての何なんだろう。いつもこうして騒ぐだけ騒いで、遅くても夜にはいなくなってしまう。」

「彼らにとってもそれは同じ事じゃないかしら? 何でも自分だけが感じてるとは思わない方が良いわよ」

「でも僕は僕が感じることしか理解できないから、何でも自分本位に考えるしかできないはずだ。君は他人の気持ちを慮っているつもりなのかい?」

「このパンケーキおいし~い(笑)」

「誰もまともに取り合ってくれやしない!」

「心の、もぐもぐ、防衛機構というのは、もぐもぐ、そういうものだ。もぐもぐ。ほら君も冷えないうちに食べたまえ!」

「......(パンケーキを食べる)」

「おいしい?」

「......おいしい」

「嘘つき」

「そうだよ、甘いものは嫌いなんだ。でもみんな甘いものが好きだからそう答えてあげるんだよ。僕にはパンケーキが嫌いと言う自由があるけど、それを言わずに『なんで嫌いなの?』『美味しいのにもったいない』と返答されることを回避する自由だってあるはずじゃないか。そして大抵他人は後者を選ぶ方が喜ぶからね」

「君は本当に面倒臭いやつだね。でも喜ばない人はここに一人いるよ」

拙者(一瞬生き返る)「ナウシカーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!!!(絶命)」

「別に自分だけが喜んだって仕方ない」

「そうやって取り繕って人から優しいと言われるのが好きなんだね」

「......そうかもしれない」

「自己愛強そう(笑)メイドカフェの店員向いてるかもよ(笑)」

(気づかぬうちにメイドカフェには月明かりが差し込んでいる。)

「月だ。もう夜か」

「今日もまたどうでも良いことばかり考えてたら一日が終わっちゃったね」

「君も行ってしまうんだろう?」

「ご名答。実は異動が決まってね、当分こっちには戻れそうにないの。帰って来たら話の続きをしましょう」

(『私』退場)

 

 

「あんなに賑やかだったのに、僕はいつも独りです」