死と超越

所見・偏見・エトセトラ

【掌編】扉

普通に書く時間が無くて雑な作りになってしまいました。

 

私は元来方向音痴です。たとえナビの指示に従っているつもりでも、全く見当違いの方向に歩いていることがよくあります。ただ、あてもなく歩くと思いもよらぬ発見や出会いがあるものですから、最近ではナビも使わずに当てもなく歩くのが半ば趣味になっています。

しかし今日はそれを控えるべきでした。旅先の見知らぬ土地で、地図も持たずに目的地まで迷わずたどり着ける方向音痴がどこにいるでしょうか? そう、私は迷子になってしまいました。とはいえ私は呑気なもので、なんとでもなるだろうと、ふらふらと彷徨っていました。そうやって歩けば歩くほど人気の無い廃墟のような建物が増えてきます。普通このような場面では孤独感や恐怖感を覚えるのですが、この時はなぜだかとても安心感がありました。そして気がつけば私は完全に道を見失ってしまっていました。困り果ててスマホを取り出しましたが圏外なので使えません。もう辺りは真っ暗です。私は途方に暮れてしまいました。

すると前方に何やら明かりが見えてきたのです。私はその明かりの方へと駆け寄りました。

 

そこは商店街でした。看板を見ると「赤猫通り」と書かれています。私はようやく道を聞けると期待しましたが、そこは寂れた商店街で人の気配はありませんでした。

なんだ、と落胆したそのとき、あることに気がつきました。全ての店の壁面に窓はなく、代わりに家の玄関のような開き戸がびっしりとついていたのです。「町おこしに、商店街の使われなくなった一角をアート作品にでもしたのだろうか」私はそう思い、見物することにしました。もしかしたら管理人がいて、道を訊けるかもしれませんからね。

 

その扉たちは似ているようでいて一つ一つ微妙に異なる形をしていました。また鍵の数も一つだったり二つだったりとまちまちで、板を打ち付けているものもありました。そしてほとんど全ての扉には厳重に鍵がかかっていました。しかし一つだけ鍵穴のない扉がありました。その扉には全く見覚えがありませんでしたが、何故かこの扉は自分のためのものだという確信を抱きました。

ドアノブを回すと、それはいとも簡単に開きました。中は明らかに自宅とは異なる間取りで、私なら買わないであろう趣味の悪い調度品で溢れていましたが、私の家であるとしか思えませんでした。だって、鍵のかかっていない家に無断で入る人間なんて、泥棒以外には所有者しかいませんからね。

 

そして私はそのままその家に住むことにしました。

迷う道は無くなりましたが、その代わりにこの扉を誰かが私と同様に迷って来たときのために解放したままにしておくか、周りに倣って鍵を取り付けるか迷っています。夜風が冷たいですし、ちゃんと戸締まりをした方が、誰かが興味を持って扉をノックしてくれるかもしれませんから。